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The Rake’s Progress「道楽者のなりゆき」

by hidepost, le 5 jan 2019

作曲:Igor Stravinsky(ストラヴィンスキー1882~1971)

内容:作曲者はシカゴで、英国の画家ホーガースの8枚の同名の情景画を見て、オペラ化を思いつき、W.AudenとC.Kallmanが台本を書いた。寓話風の教訓劇に仕立て、音楽は新古典的な技法で伝統的なオペラの様式に従っている。3幕 英語

あらすじ:

1幕

第1場 春、ロンドン郊外の家の庭で、アン(ソプラノ)と、その恋人で働く事の嫌いな青年トム(テノール)が、恋の喜びを歌っている。アンの父親のトゥルーラブ(バス)は遊び者のトムの事が心配で、娘を家に帰してトムに就職口を勧めるが、トムは「世の中は運次第さ」と言って相手にしない。「怠け者の所には娘はやらない」と言いながらトゥルーラブが去ると、ニック・シャドウ(バリトン)が現れ、トムに「貴方の叔父が死んで貴方を遺産相続人に指定した」と告げ、アンと父親は神に感謝する。トムは相続手続きの為に、シャドウとロンドンへ向かう事になり、恋人達は別れの二重唱を歌い、馬車の準備をしたシャドウにトムが「お礼はどうしたら良いか?」と尋ねると、シャドウは「1年と1日私が貴方に仕えた後、貴方自身が何を私に払うべきか解るはずだ」と答える。トムは父親に「全てが済んだらアンと貴方を迎えに来ます」と言って馬車に乗り、シャドウは観客に「“道楽者の成り行き”の始まり」と告げる。

第2場 シャドウが、金持ちになったトムをロンドンのマザーグースの売春宿に連れてくる。マザーグース(メゾソプラノ)の前でトムはシャドウに教えこまれた快楽についての問答を交わすが、最後の「愛とは何か」という質問にトムは「この言葉は私の唇を燃やし、魂を恐れで打ちのめす」と答えて帰ろうとするが、シャドウに引き止められる。享楽に身を任せることにしたトムは、グースと共に寝室に入り、シャドウは「夢が偽りであっても夢の方がましだ。目覚めれば死なのだから」と呟く。

第3場 トムから何の便りもないのを悲しむアンが、アリア“静かな夜”を歌い、父親はまだ元気だが、トムは弱いので助けが必要だと、トムを捜しにロンドンに行く決意をする。

2幕

第1場 トムが朝食を摂りながらロンドンでの快楽を求める生活に飽きたと、今は思い出さない様にしているアンとの幸福を思っていると、シャドウが現れ、有名なトルコのバーバの写真の付いたサーカスの広告を見せる。この女は未だ実際に見た事はないと答えるトムに、シャドウはこのバーバとの結婚を勧める。トムは最初は「正気か?」と相手にしないが、シャドウの説得に、とうとうその気にさせられてしまう。

第2場 ロンドンに到着したアンが、トムの家を探し当てて彼を待っている。召使い達が奇妙な荷物を家に運び込み、アンが訝(いぶか)っている所へ輿が到着して、中からトムが降りて来る。顔を輝かして喜ぶアンとは対照的に、トムは自分はもうアンにふさわしい男ではないから忘れてくれるようにと頼む。ヴェールを被ったバーバ(メゾソプラノ)が「何時まで待たせるのか」と怒鳴り、トムとアンは取り返せなくなった昔を歌い、それに「待つのは嫌いだ」と叫ぶバーバとの三重唱。諦めたアンが去り、トムはバーバを助けて輿から降ろし、集まっていた群衆の中、家に入る。群衆の要望でバーバがヴェールを取ると、その顔には髭がある。

第3場 バーバは朝食を摂りながら、自分のファンから送られた様々な品物を自慢してトムに語るが、トムは拗ねて相手にしない。バーバは機嫌を取るが、邪険にするトムに怒り出し、手当たり次第に物を投げつけ「あんたは家の前で会ったあの娘を愛しているのだ」と喚き、トムが彼女の鬘を取って彼女の口を塞ぐと、バーバは彫像の様に動かなくなる。絶望したトムはソファで眠ると、シャドウが、石をパンに変えるからくり機械を持って入って来る。トムが目を覚まし、「石をパンに変える機械を発明した夢を見た」とシャドウに言うと、「それはこれでしょう」とシャドウが機械を見せ、トムはこの機械で善行をしてアンに過去を許してもらおうと喜び、シャドウは「機械を大量生産しなさい」と彼を炊きつける。

3幕

第1場 合唱がトムが事業に失敗して破産した事を告げ、トムの家では競売の為に人々が集まっている。アンがトムを捜して入って来るが、誰も彼の行方を知らない。競売人のセレム(テノール)が登場して、競売を始め、最後に動かなくなったバーバを競売にかける。高値で落札された所で、セレムがバーバの鬘を取ると、バーバは動き出して人々は驚く。騒ぎの中、遠くからトムとシャドウが「古い女房は売ってしまえ」と歌う声が聞こえ、アンが窓際に走り寄るが姿が見えない。バーバはアンに「彼はお前を愛しているから、悪のとりこになっている彼を救ってやりなさい」と優しく言い、再び聴こえて来たトムの歌声に、アンは人々に励まされながら、その後を追いかけて行く。バーバはサーカスに戻る事を決め、人々に「次にバーバを見る時には木戸銭を払うんだよ」と声を掛けて去る。

第2場 夜、シャドウがトムを教会の墓地に連れて来て「今日で1年と1日が過ぎたので、約束通り支払いをしてくれ」と言う。「また金持ちになった時に払う」と言うトムに、シャドウは正体を現し「支払いはお前の魂で払え」と迫る。押し問答の後、カードで決着をつけようとシャドウが提案し、トムはアンの事を想いながら、3枚のカードを言い当てて賭けに勝つ。怒ったシャドウはトムに呪いを掛けて気を狂わせてしまう。明るくなった舞台で、トムはヴィーナスに愛されている少年アドニスになっていてあどけなく歌う。

第3場 精神病院でトムは、まだ自分がアドニスだと思い込んでいて、周りの人にヴィーナスとの婚礼の準備を命じる。番人がアンを連れて来て、彼女はヴィーナスのふりをしてトムに優しく語りかけ、2人は愛の二重唱を歌い、彼女の歌う子守唄でトムは眠りに着く。父親が現れてアンを優しく連れて行き、目覚めたトムがヴィーナスを捜すが、周りの人もそんなものは見なかったと言い、トムはベットに倒れて息を引き取る。

エピローグ

アンは「放蕩は愛と美では救えない」と言い、バーバは「女は夫が気が狂っている事に気づく」と言い、トムは「放蕩者にはなってはいけない」と言い、父親はそれに賛同して、シャドウは「私は本当は存在しない方が良いと思う」と言うが、皆が声を合わせて「アダムとイブ以来、悪魔は常に働き場があった」と唱って幕となる。