ボレスワヴィエツ市はポーランド南西部、シレジア工
業地帯に位置する陶器の街です。この地帯はもともと
良い焼き物を作るのに必要な長石と珪(けい)石の含有
量が多い、良質の粘土層に恵まれていました。そのた
め、掘削した粘土を使った陶器の製作が14世紀頃から
始められていたそうです。

シレジアといえば、近代ヨーロッパ史の「シレジア蜂
起」を思い出す人も多いでしょう。ポーランド、ドイツ、
チェコの国境にほど近く、オーデル川流域で水運の便
が良いこの地域は、何世紀にもわたりって時の有力者
間の勢力争いに巻き込まれ、民族、宗教、言語の相違
をめぐる、いわゆる「帰属問題」を抱え、苦渋の歴史を歩
んできました。そんな中で、ボレスワヴィエツが比較的豊かな町として生き残ったのは、伝統的陶器産業が、街を混乱と疲弊から救ったからだとも言われています。

一口に陶磁器といっても原料、焼成温度、釉(うわ)
薬のあるなし、その他の違いによってたくさんの種類が
あります(右表参照)。ボレスワヴィエツ地方の陶器は、
1,100〜1,300??の高温で焼かれる、�b(せっ)器(ストーンウェア)と呼ばれるものです。焼き物は、珪石と長石の含有率が高く焼成温度が高いほど、出来上がりがガラスに近い、硬く透光性の高いものになります。�b器は陶器より長石と珪石の含有率が高いため、指ではじくとチーンと軽い澄んだ音のする、磁器に近い硬度を持っ
ていますが、磁器よりも焼成温度が低いため、陶器の
ようなぽってりとした素朴な風合いを保っています。

ボレスワヴィエツ・ストーンウェアの代表的絵柄は、絵
付け職人たちの生まれ故郷ポーランドの広大な自然を
彷彿とさせる草花や果物、鳥など自然の動植物。「ピー
コックアイ(孔雀の羽模様)」「ひまわり」「デイジー」「ブ
ラックベリー」「バラ」「スプリングガーデン」など、素朴
で親しみやすい絵柄が多用されています。

2004年のEU加盟以来、急ピッチで経済成長が進
むポーランド。社会主義時代には国の統制下に
あったボレスワヴィエツの製陶業も民主化以降自
由化され、筆一本で名を上げる絵付師や、新進気
鋭の若手デザイナーが腕を競う時代になりまし
た。今後の発展が期待される産業のひとつと言え
そうです。