ベルギーの家に引っ越してきた年の春、裏庭の花壇に雑草ではないような植物がたくさん生えているのに気が付きました。前に住んでいた人が植えたものか、風で花の種が飛んできたのかもしれないと思って、抜かずにしばらく様子を見ることに。その後葉は紫蘇のようにギザギザになり、背丈も30 センチほどになりました。もしかしてこれからすごくきれいな花が咲くとか、実は園芸店で高く売られている植物とか？ 期待しながら育ててみると初夏に花が咲きました。

花壇の特等席で咲いたのは白くて小さい非常に地味な花。菜の花に似ている特徴を手がかりに調べると、日本ではハーブとして苗や種が売られている、アブラナ科の植物でガーリックマスタードだと分かりました。ハーブだったと喜ぶ私に、「ハーブって言っても、その辺に生えているタダの雑草！」とダンナの反応は冷ややか。実は近所の道路沿いなどにもたくさん生えていて、わざわざ花壇に植えるような植物ではないことに、花が咲いてから気が付いたのです。しかし少しでもグランドカバーとして緑があった方がよいし、食用にもなるので翌年も育つ若い苗だけを三等席に移動しました。

その後、今度は別の花壇に、また雑草には見えない植物が生えているのに気が付きました。ガーリックマスタードの種は日本だと250 円の価値があるのだから、今回も使えるハーブだったら儲けもの。また抜かずに花壇に残すことになりました。

さて、そんなハーブらしき？ 植物のことはすっかり忘れていたある日のこと。花壇の手入れをしていると、見知らぬ女性が花壇の高さ1 メートル弱の植物を指差しながら、こんな花は見たことないといった顔つきでそれは何かと聞いてきました。1 メートル弱に伸びた茎の上にクシャクシャと丸めたティッシュを乗せた感じのその植物は、臨終間近の葉ボタン。「珍しいものではなく、半年以上放置するとこうなりますよ」と、たどたどしいフランス語で伝えてみたものの相手は分かったような、分かっていないような。すると今度は女性が葉ボタンの横にある、例のハーブらしき植物を指さしながら、フランス語で何か言ってきます。私がフランス語はよく分からないというと女性は片言の英語で「▽◆××○＠〜、スープ、グッド！ デリシャス！ ベター、ナウ！ 」とか何とか言いながら、その草を抜いて食べる仕草をします。なんと！ あれがスープにして食べると美味しい今が旬の食材だったとは！ やっぱり私の勘は当たっていた ! 食欲スイッチが24 時間入りっぱなしの私は、すぐに素手でその草を引っ張りました。しかし次の瞬間、両手に鋭い痛みが走り、しだいに赤く腫れてビリビリと麻痺してきたのです。私が痛さでびっくりしていると、女性は「NO！ NO タッチ〜」と呆れ顔で私の手を覗き込んできました。


私が素手で抜いたのはイラクサ（ネトル）。若いイラクサはハーブとしてスープにしたりお茶にしたりできますが、トゲ草、イタイタ草などと呼ばれるように茎などに毛のようなトゲがあって、素手で触るのはご法度。日本では見たことがありませんでしたが、この辺りにはガーリックマスタード同様に普通に道端に生えていました。通りがかりの女性はきっと、「トゲがあるから気を付けてね。でもスープにしたら美味しいわよ」なんてことを言っていたのでしょう。「先に『NO タッチ』って言ってくれていたら触らずに済んだのに！」 と逆ギレ状態の私に対して、ダンナは「フランス語を習いなさい」と一言。後に書店でベルギーの雑草とハーブ図鑑を買い、今回ばかりはフランス語を習おうと思ったMao なのでした。

↑イタリアンパセリとローズマリーの寄せ植え。ワインのコルクはマルチング材として再利用。

↑ガーリックマスタードの若葉はディップなどに

↑ボリジの星型の花は砂糖漬けやサラダに

↑取り扱い注意のイラクサ