ちょっと頼みたいことがあると言って、近所に住む友達が幼稚園に通う娘さんを連れて我が家を訪ねてきました。押し花と、花びらや実からとった汁で模様を描く遊びをしているので、我が家の花壇に咲いている花を分けてくれないかという話でした。娘さんは紫色と青色の花や実を探していたので、私のブルーガーデンは採集にもってこいの場所。私は「どれでも欲しいだけ採っていいよ。ただし、あの背が高くて青い花だけはダメ。危ないから」と返事をしました。

乾燥機の中でカイワレ大根、庭では危険な植物の栽培をしているMao です。裏庭の半日陰の花壇には、この青い花がたくさん。マルシェで一目惚れしたこの花は、背丈も花の形もデルフィニウムに似ているのですが、切り花を買ったときに名前を聞くとAconitum（アコニタム）だとお店の人が教えてくれました。その後、家に帰って花図鑑を広げてみると、育てるには風通しが良く高温にならない半日陰で、若干湿り気がある土がよいと、まさに我が家の裏庭にある花壇にぴったりの条件が書いてあります。すべての部位に毒があると書かれていますが、水仙やあじさいといった身近な植物にも毒があるくらいなので、特に気にしませんでした。私は早速苗と種を買い、日当りが悪いので何を植えようか悩んでいた花壇に切り花としても使えるようにとたくさん植えたのです。

アコニタム＝トリカブトだと知ったのは、育て始めて数年経ってからのことでした。普段英語で書かれた図鑑を使っているので、日本人の友達にアコニタムの和名（学名の代わりに用いられる日本語の名称）がトリカブトだと言われるまで気付かなかったのです。凛とした草姿と美しい色の花にもかかわらず、西洋で暗殺に使われたことや「復讐」という花言葉からも、おどろおどろしいイメージがあるトリカブト。日本では例の事件で一躍有名になりました。私もその日本の事件は知っていたものの実物を見たことはなく、まさか自分が世界最強とも言われる有毒植物を、庭で大量に育てていたとは思ってもいませんでした。

私はすぐダンナにトリカブトの毒がいかに恐ろしいか、またトリカブト同様に毒性がかなり強い植物があって、フランスではキョウチクトウの枝を串に使ってBBQ をしたために、死亡者がたくさんでたケースなどを交えて話しました。ダンナはアメリカの地元に自生しないトリカブトは知らなかったものの、「かぶれる草木とか、どの実や草が食べられるとか、山の物ならよぉ〜く知ってます」といった態度。ダンナは山の中で育ったし、地元の山に自生する植物図鑑は持っている。自給自足のマウンテンサバイバルを教える専門家と一緒に山歩きをするくらいだから、私なんかより詳しいのだろうと思いました。

その年の秋、ダンナが「ひどい目にあった。渋くて舌やのどがおかしくなった」と日本から戻ってきたばかりの私にある物を見せてきました。残飯入れの中に入った、彼の言う「究極のまずい栗」に目をやると、それはマロニエ（西洋トチノキ。実は有毒物質を含み、適切な処理をしないと食べられない）の実。自称山のエキスパートが、そんな毒を拾ってきて食べるとは、驚きつつもかなり呆れたMao なのでした。

綺麗な花には毒がある！？
ヨーロッパ原産のヨウシュトリカブト