プチポワ独占インタビュー
ベルギーで活躍する日本人

Q.　まずはお店のオープンおめでとうございます。
A.　ありがとうございます。雇われていた時は店のオーナーの要望に合わせて作っていたのですが、これからはお客様のニーズにこたえていくんだなということを実感しています。と同時に、自分の目指す味を追求できるのはやりがいを感じます。店の味を決めるのはオーナーですから。
Q. 佐々木さんの目指す味とは何でしょうか。
A.　お客様が毎日食べたくなる味が理想です。私の菓子作りの原点は小さい頃、病気の時に親が買ってくれたショートケーキです。初めての味に「世の中にこんなにおいしいものがあるのか」と衝撃を受けたのを覚えています。あの時の素直な気持ちを、私のケーキを食べた人にも感じてもらえたらと思っています。流行を追ったり、奇をてらうのではなく、正統な味を基本にオリジナリティを出せればと思います。
Q.　ストッケルの名店マユーで１１年間勤務されていましたね。
A.　修行中いくつもの店を渡り歩くパティシエも多いのですが、私は手続きなど雑多なことに気をとられたくなかったので、慣れた環境で腰をじっくりすえて製菓に専念することを選びました。ベルギーでは菓子職人はパンやケーキ、チョコレート、アイスクリームもすべてこなすので忙しいんです。一言でケーキといっても、焼き菓子、プチガトー、アントルメ（ムースのケーキ）、ピエスモンテ（デコレーション）などいろいろな部門に分かれています。ピエスモンテではアメ細工、ヌガー細工、シュガークラフトなどの技術も要求されます。私もマユーでひととおり担当していました。
Q. パティシエになろうと思ったきっかけは何ですか。
A.　もともと手先が器用で料理が好きだったので、食の道へ進むのは自然なことでした。ただ、ブリュッセルのC.E.R.I.A専門学校への入学時はフレンチを専攻するつもりだったんです。でもよく考えたら小さい頃から昆虫などの生き物が嫌いで魚がさばけなかった・・・（笑）。そこで進路を修正し菓子職人の道を選ぶことになりました。高校までは理系人間だったものですから、卵、小麦粉、砂糖など限られた素材で緻密な計算のもとに味を組み立ていく菓子作りの世界に次第に惹かれていくようになりました。
Q. お菓子作りが理系科目とは思いもよりませんでした・・・。
A.　ほんのさ細な分量の違いや焼き温度が風味を左右するところは化学反応的ですよ。同じ材料でも冷やしてあるものと室温のもので出来上がりが違ってきたり。どちらを使うかはパティシエの判断で、ここは個人の感性がお菓子に表現されると思います。
Q. 日本とベルギーのケーキの違いは。
A.　一番大きな違いは材料と湿度です。素材の特性が違うので作り方も変わってきます。例えば小麦粉。ベルギーのものはキメが粗くて、日本のものは細かくサラサラなんです。ミクロンの差なのですが（笑）。卵もPH値が違いますし、冷蔵ケース内での湿度の違いも食感に大きく影響します。
Q. 日本人ということを特に意識することはありますか。
A. 日本人であることをことさらアピールするつもりはありませんが、日本人的特性が個性となってお菓子の味ににじみ出ているのではないかと思います。この国でお菓子に関する知識を勉強したので、ベルギーの菓子作りの技術をベースに日本人的な感性をもって作っています。
Q.　佐々木さんがおいしいと思うパティスリーを教えてください。
A.　 どのお店というより、実はアトリエで食べる出来立てのお菓子が一番おいしいと思います（笑）。お菓子は食べるタイミングが大事で、例えばチョコレートは固まる直前が最高においしい。残念ながらテイクアウトのお店ではいつ食べられるかはわかりません。新鮮な素材を使うのは当然のことですが、お客様にはできるだけ早く帰ってすぐ味わってもらえることを願っています。