Binche（バンシュ）は、エノー州の首都Mons（モンス）から東へ16キロほどの12〜13世紀に築かれた城壁で囲まれた静かな町。かつて炭鉱町として栄えたが、今は石炭産業の衰退とともにすっかり廃れてしまった。その町が、年に1度、水を得た魚のように生き返る。そう！ ここはユネスコ無形文化遺産に登録された、バンシュのカーニヴァルの舞台。

毎年灰の水曜日（今年は2 月 6日）前の日曜日から火曜日までの3日間、四旬節前に行なわれるカーニヴァル。町の人たちは1日目の朝から、着飾って踊り、午後には1500人もの人たちが、踊りに参加する。この踊りは2日目も続くが、何といってもハイライトは火曜日のマルディグラ（カーニヴァルの最後の日）。毎年1000人以上の“道化師ジル”がこの日に登場する。ジルになる資格は、バンシュの町で生まれ、一度も町から離れたことの無い男子に限られる。彼らにとってジルになることはとても名誉なことなのだ。
ジルたちの装いはとても華やか。大きな綿のかたまりで胸を膨らませ、背中にはコブを付け、その上に真っ赤なライオンの紋章をいくつも縫い付け、リボンやレースで飾り付けした衣装をまとう。腰にはいくつも鈴を付けたベルト、足には木靴。この独特のスタイルはインカ帝国の衣装に由来するそうだ。16世紀この一帯はスペインの支配下にあり、同様に支配下だったインカ帝国の衣装がはるばるベルギーに伝わってきたのだ。ジルたちは夜明けとともに町に現れる。その日に口にできるものはシャンペンと柿だけというのもおもしろい。タンバリンのリズムに合わせてゆっくりと踊りながら通りを進み、午前10時までには全員がグランプラスに集合。眼鏡とナマズの仮面というユーモラスないでたちで正午まで踊る。

午後3時、いよいよカーニヴァルのクライマックスを告げる大砲が町中に轟きわたる。家々の戸口では主役たちが自分の出番を待ち、母親、あるいは奥さんにダチョウの羽で作った巨大な帽子を被るのを手伝ってもらっている。今年、デビューなのか少年が戸口に立っていた。思わず駆け寄って写真撮影を許してもらったが、手に持っていた籠からオレンジを一つ恥ずかしそうに差し出してくれた。
ジルたちはグループを作り、鼓笛隊を従えて、メインストリートに集まってくる。3〜7キロもある重い帽子を被り、重たい木靴を履きながらも軽やかにステップを踏み、ぐるぐる回りながら進んでいく。時々、帽子が頭から外れ、家族に直してもらっている姿がなんとも微笑ましい。通りで見守る人たちも一緒に踊ったり紙吹雪を投げたり、またジルたちが投げるオレンジを一生懸命キャッチしたり。2〜3階のバルコニーにも、オレンジを受け取ろうと人々が手を差し出している。ジルたちも踊ったりオレンジを投げたり忙しい。見物人とジルが一体になって祭りを作り上げていく。パレードがグランプラスに戻ってくるとロンドダンスが始まり、カーニヴァルもいよいよ最高潮に。グランプラスは見物人も加わり、身動きができなくなるほどの盛り上がりをみせる。ダンスは夜中まで続けられ、3日間のカーニヴァルに終わりを告げる花火が天空に舞うと、また町は何事もなかったように静けさを取り戻す。
 

あれから1年・・・今でもあのビートのきいた小太鼓の音が心地よく蘇ってくる。オレンジを差し出してくれた少年は、どうしているだろう・・・そうだ！ 今年もまたジルに会いに行こう！

バンシュ（Binche）のカーニヴァル　www.carnavaldebinche.be
2/3(日)〜2/5(火)　道化師ジルの登場は2/5日（火）　午後3時からパレード、オレンジ投げ
期間中はセントラル、ミディ駅から直通の列車が1時間に1本運行される。（所要時間約1時間）