あらすじ　

プロローグ
第1場　摂政ボリスが隠遁している僧院横で、警官が民衆にボリスが皇帝になるようにと懇願させている。書記官シチェルカーロフ（バリトン）が現れ「ボリスは貴族会議と総主教の願いにもかかわらず就任を拒んでいる」と告げる。遠くから巡礼達の合唱が聞こえてくる。
第2場　聖堂からシュイスキー公爵（テノール）が現れ、ボリスがやっと帝位を受けたと民衆に伝える。民衆のボリス万歳という合唱に答えて、ボリス（バリトン）が、息子のフョードルと娘クセーニャを連れて現れるが、その胸の内は不吉な予感を感じている。

第1幕
第1場 　僧院で長年ロシアの年代記を書いてきた老僧ピーメン（バス）が、ボリスがドミートリー皇子を暗殺した箇所で筆を休め「この話で年代記も終わる」と独白を歌う。側で寝ていたグリゴーリー（テノール）が目を覚まし、「その殺された皇子の年齢は」と尋ね、ピーメンは生きていればお前と同じ歳だと答える。ピーメンが去った後グリゴーリーは「ボリスは神の裁きを受けるだろう」と独白する。

第2場　リトアニア国境の旅籠屋で女将（メゾソプラノ）が陽気に歌っていると、浮浪者のワルラーム（バス）とミサイル（テノール）がやって来て、続いて皇子ドミートリーの偽名を使ったグリゴーリーも登場する。酔ったワルラームがグリゴーリーにも酒をすすめるが、彼はふさぎこみ、女将にリトアニアへの道を尋ねる。そこへ警官が入って来て「モスクワから逃亡したグリゴーリーを探している」と3人を尋問するが、グリゴーリーは警官が字が読めない事を良い事に、自分の逮捕状の人相書きをワルラームの人相そっくりに読み替える。怒ったワルマールが人相書きを取り上げて読み直すと、グリゴーリーはナイフを振り回して窓から逃げる。

第2幕 　クレムリン宮殿の皇帝の居間で、ボリスの娘皇女クセーニャ（ソプラノ）が亡くなった婚約者の事を想い泣き、乳母（アルト）が慰めて、ひょうきんな「蚊の歌」を歌う。ボリスの息子皇子フョードル（メゾソプラノ）も「小さな雄鶏さん」と歌い、乳母と踊り始めると、そこへ皇帝ボリスが登場する。彼は娘を慰め、王国の地図を勉強するフョードル皇子に「やがてこの広い王国はお前のものとなる」と語り、「最高権力を握って6年たったが、私は幸福ではなかった」と有名な独白の中で、先帝の皇子を暗殺した良心の呵責を歌う。シュイスキー公爵が現れ、「反乱軍がポーランドの支援を得てリトアニア国境に迫り、その首領は死んだはずのドミートリー皇子と名乗っている」と告げる。不安になったボリスは公爵に、死んだ子供は間違いなくドミートリーであったかと詰問し、公爵がその死の様子を語ると、青ざめたボリスは公爵を去らせる。ボリスは死んだ幼児の幻影に苛まれ狂乱し、最後に跪いて神に許しを乞う。

第3幕
第1場　ポーランドの貴族ムニシェクの城で侍女達が娘マリーナ（メゾソプラノ）の美しさを讃えているが、彼女は　そんなお世辞よりも勇敢なポーランド戦士を讃える歌が聴きたいと侍女達を退らせる。偽のドミートリーと知りながらグリゴーリーを愛してしまったマリーナは、そのアリアで　始めは恋人を慕う気持ちを歌うが、次第に皇后になってロシアを征服するという権力を望む歌を歌う。そこへイエズス会の僧ランゴーニ（バス）が現れ、偽ドミートリーを貴女の力で誘惑してカトリックに改宗させよと命じ、マリーナは反対するが、結局はこの僧の権力に屈する。

第2場　城の庭で偽ドミートリーがマリーナへの愛を歌っていると、ランゴーニが姫の使いだと現れ、彼女との結婚を望むならば改宗せよと迫り、彼は改宗する。城内からポロネーズの音楽が聞こえ、貴族の客達がマリーナと共に出てきて踊りが始まる。人々はボリスの軍隊を破ろうと合唱し、マリーナを讃えて再び城内へ入っていく。偽ドミートリーは姫の美しさに魅せられ、王冠を得なければと歌い、現れたマリーナに愛を訴えるが、彼女は「私が望むのはモス
クワの皇帝の位。ボリスとの戦いを忘れたなら出て行け」と言う。怒った偽ドミートリーが「皇帝になってお前を女奴隷にする」と叫んだ時、彼女は自分の雑言の許しを乞い、2人は愛の二重唱を歌い、城内からは万歳の歓呼が聞こえてくる。

第4幕
第1場　モスクワの寺院前の広場に群集が集まり､男達は「ドミートリーは偽者だ」と言う農民ミチューハ（バリトン）の言葉を信じない。白痴（テノール）が　子供達にお金を盗られて嘆いている所へ、ボリスの行列が寺院から出てくる。群集は飢えたる者にパンを与えよと訴え、白痴は　立ち止まったボリスに「子供がお金を盗った。彼らを殺せと命じてくれ。お前が幼い皇子を殺したように」と叫ぶ。シュイスキー公爵が彼を捕まえようとするが、ボリスはそれを押しとどめて「私の為に祈ってくれ」と言って去る。白痴は「ヘロデ王の為には祈れない。闇がはじまる。泣けロシアの民よ」と悲痛に歌う。

第2場　クレムリン宮殿で貴族達が反乱軍の処置について議論していると、シュイスキー公爵が「皇帝が乱心された」と告げ、ボリスが幻影を追い払う様にして現れる。ボリスがやっと落ち着きを取り戻すと､シュイスキー公爵が「1人の老僧が重大な秘密を話したがっている」と伝え､老僧ピーメンを連れてくる。ピーメンが、盲目の老人が皇子ドミートリーの夢を見て、その墓参りをしたら不思議にも眼が治ったと語り始めると、ボリスは再び錯乱する。自分の最後が近い事を悟ったボリスは、皆を退らせ、皇子フョードルを呼び、息子に国をいかに統治するかを教え、別れを告げる歌を歌う。葬送の鐘が聞こえ、ボリスは　神に赦しを求め、集まった貴族達に自分の息子を指さし「これがそなた達の皇帝だ」と言い残して息絶える。

第3場　ボリスの圧制に耐えかねて一揆を起こした農民や暴動に加わった浮浪者達が、貴族フルシチョフを縛りあげて連れて来る。カノン風の合唱が繰り広げられ「正統のドミートリーを皇帝にして、人殺しのボリスに死を与えよ」と気焔を上げる。そこに　偽ドミートリーの軍隊が現れ、偽ドミートリーも「我こそ全ロシアの皇帝である」と叫び、人々の歓呼の中、モスクワへ進軍して行く。群集が軍隊と共にいなくなった後、1人白痴が「闇が始まる。泣けロシアの民よ」と悲痛な声で嘆き、幕となる。