「愛犬にとってあなたは楽しい存在ですか？」
これは私がドッグスクールで教えていたときに飼い主によく聞いた質問です。ほとんどの飼い主は私の質問の意味が分からない、という顔をします。そして次の質問「あなたはイヌと遊んでいますか？」を聞いてホッとします。「もちろん、庭にはイヌ用オモチャがたくさん転がっています」とか、「もう一匹のイヌといつも遊んでいますよ」などと自慢げに答える飼い主たち。私が聞いているのは「飼い主が一緒に」遊んでいるかどうかなので、これでは答えになっていません。

飼い主がイヌと遊ぶことはとても大切なことです。なぜなら、遊びは飼い主とイヌの関係を向上させるからです。一緒に遊ぶことにより、飼い主はイヌにとって楽しい存在、さらに注意を注ぐべき存在になります。飼い主に注意を注ぐことは、後にイヌをしつけるときに大変役に立ちます。飼い主がいてこその遊び。それで文頭の質問になるわけです。

もちろん、遊び方にはコツがあります。最も大切なことは、
主導権が飼い主にあることです。つまり遊びを始めるのも、
終えるのも飼い主が決めます。例えば、庭に転がっている
ボールをくわえてきてイヌが遊びをせがむときは無視し、「おすわり」や「伏せ」など、何か指示を与えてから遊び始めます。オモチャ使用の判断やその所有権も飼い主にあります。ボールの持ち主はイヌではなく、飼い主なのです。ボールはイヌの届かないところに置いておき、飼い主がボールを手に取り、投げてやります。数回繰り返し、イヌが「まだまだ遊んで！」と思っているうちに、さっと遊びをやめます。こうするとイヌは次に飼い主が遊び始めるタイミングを注意して待つようになるのです。

ボール遊びだけでなく、ロープの引っ張りっこなども同じです。常に最後は飼い主が勝って終りにします。この時点でロープはいつも保管している場所に戻します。

たまに、引っ張りっこで遊んでいる最中にイヌが興奮し過ぎ、つい飼い主の手に歯を立ててしまうことがあります。こういうときには即刻遊びを終えます。このようなことが続くと、なるべく歯を当てないよう気を付けて遊んだ方が得だとイヌも考えるようになるのです。こうして遊びの中でマナーを学んでいきます。

オモチャを使わない遊びもあります。例えば簡単にできるのが、かくれんぼや鬼ごっこです。かくれんぼをしながら、同時にイヌに「待て」を教えることができます。待たせてから飼い主が隠れ、イヌに探させる。鬼ごっこは、飼い主が逃げてイヌに追いかけさせれば「おいで」を教えることにもなります。

飼い主と遊ぶことはイヌにとってストレス発散になり、同時に飼い主にとってもストレス発散となれば、お互い心にも体にもよい影響を与えます。そして、主導権ルールを守って遊んでいくうちに、自然に飼い主の言うことをよく聞くしつけやす
いイヌに育っていくのです。