チョイワル夫の欧州日記

−僕の好きな欧州−

連載の第1回目は、『ワイン』。そう、この欧州で酒を飲むといったらまず先に誰もが思い浮かべるであろう、欧州の芸術の一つですらある高貴なものであり、日常の食卓とは切っても切り離せない程、庶民の生活と密接に結びついているものでもある。大体、「酒」といえば、イメージ的に中の下、「大酒飲み」「酒に目が無い」という言葉に至っては下の中、奥様方からの評価は大抵そんなものだろう。

ところが、「ワイン」「ワイン通」「ワインを極めた」という言葉は、ほぼ前述と意味合い的に変わらないにも関わらず、奥様方からの評価は上の中、大振りのグラスをくるくる回して、中空を睨みながら「うーん。少し若いですね。」なんて呟けば、上の上すら夢ではない非常に都合が良い飲み物なのである。この際、好物の日本酒を全面的に廃止し、ワインに傾倒しようと考えた僕と同じ男性は、多々居るのではないだろうか。

しかしながら、ワインの恐いところは最初「なんだか酸っぱいなぁ・・・」なんて初めて黒酢ダイエットに挑む人のようなコメントをしながら飲んでいたものが、段々講釈を垂れるようになってくると、その口数と比例して購入するワインの値段は上がってゆき5ユーロ、10ユーロの壁を順々に越え、最後にはとんでもない高みに到達してしまうのである。何しろ、上を見れば数千ユーロまである欧州の芸術である。その高みといったら、さぞ気分は良いであろうが、奥方の後の反応を考えると足がすくむ思いであることは容易に想像して頂けるであろう。斯く言う僕は、現在数十ユーロの高みに、なんとか到達してはいるものの、既に足は奥方の日々の冷たい目にすくんでおり、これ以上については、家庭内コンプライアンスにでも反しない限りは望めそうに無い。ちなみに家庭内コンプライアンスに反すれば、即、家庭内降格、既にペットよりも低い地位に居る場合は懲戒免職も有り得る。再就職は絶望的。家庭での保身を取るか、欧州芸術の高みを取るか。欧州駐在チョイ悪夫の悩みは尽きない。