ベルギーのホットトピック
自由とは何か

?5月末、ヴェール(イスラム教で女性が頭髪部を隠すために被るスカーフ)着用に対するベルギー人の意識調査とそれに基づく研究結果が、カトリックルーバン大学(UCL)教育心理学部のヴァシリス・サラグロウ教授から発表された。

それによると、ベルギー人の半数以上がヴェールを被るのは現代社会の流れに反しており、一定の場所では禁止すべき、という意見を持っているという。また、44.6%は学校内では禁止すべき、35%は公共の場では禁止すべき、としている。全体の5人に1人はどんな場所でも禁止すべき、という厳しい意見だった。反対にどこでヴェールを被っても問題ない、としているのは17.5%。年齢によって否定的意見に偏りがみられたが、教育レベルや家族構成には関連性がなかった。
ヴェールは何を意味すると思うか、の質問に対しては、「特定のコミュニティーに属するというシンボル」75％、「隷属状態の表れ」69.2％、「ベルギー人とは違うことを表明するため」42.2%、「反欧米化の印」30.8%、そして20%が「自由を守るため」と答えている（複数回答式）。

調査で明らかになったのは、ベルギー人の「自由」に対する考え方の複雑さだった。ヴェールの着用は異文化、異宗教の風習だが、それは「信仰の自由」という観点から容認すべきだ、という意見がある一方、ヴェールの着用が人権や男女の平等という自由を脅かし、更に　<ライシテ>*の社会原則に反しているのではないか、という疑いが多くの人の胸にあるのも確かだ。つまり、ヴェール賛成派と反対派は両者ともに共通の論拠としてベルギー社会に深く根ざした<リーブル･エグザマン>**の哲学と精神をあげている。

この複雑な論議を象徴する出来事が、今年2月、ブリュッセル自由大学(ULB)でも起きた。学内のアラブ=ヨーロッパ学生サークルとリーブル・エグザマン・サークルが計画した、エジプト出身でスイス国籍のイスラム学者タリク･ラマダン氏の講演会を総長が中止させたのだ。ラマダン氏はイスラム原理主義者としても有名で、一方的な講演は思想の押し付けになりかねず、<リーブル・エグザマン>の原則に反する、という理由。一方計画したサークルは、言論の自由に対する検閲行為だとし、話はメディアを巻き込んだ大々的な論争に発展した。

ヴェールに話を戻すと、この論争はフランスでも90年代半ばから断続的に繰り返されてきた。結局2004年、シラク大統領はライシテ法（別名「イスラム・ヴエール法」）を議会で可決させ、現在フランスの公立学校では宗教的なシンボル（イスラムのヴェール、ユダヤ教のキッパ帽、キリスト教の大きな十字架など）の着用が禁止されている。ベルギーにはこのような法律はない。
興味深いのは、公立学校でヴェールの着用が禁止されているのは欧米諸国だけではないという事実。インドネシア、チュニジア、トルコなど、イスラム諸国でも女学生はヴェールなしで登校している。

*laicite : 一般に政教分離と訳され、教育と宗教の分離の意味もある。
**libre examin : 差別感情、ドグマ、信仰、権力による思想の押し付けなど、存在するすべての先入観を排除した純粋なものの見方。