ベルギーのホットトピック　1月
フォルクスワーゲンの行方

　昨年11月21日、懸案だったVW　（フォルクスワーゲン）・フォレ工場の大規模縮小計画が世界中に報道された。そして、その内容は各方面の予想を上回る深刻なものだった。中型車ゴルフの製造ラインをすべて停止し、解雇予定数は4000人。
話はそれだけではない。全労働者の3分の2近くを解雇するという縮小案の裏には、近い将来の工場完全閉鎖の影が濃い。というのも、同工場の損益分岐点は年間生産台数20万台であるというのに、発表どおりゴルフ製造ラインを閉鎖して小型車ポロのラインだけになった場合、その生産台数はわずか6万台に過ぎないのだ。今、工場を完全閉鎖すれば全従業員6700人に閉鎖手当てを支給しなければならない。損失を出しても当面工場を継続することで、実際の閉鎖時には残りの従業員1500人にのみ手当てを支給すれば済む、という会社側の目論見があるらしいのだ。
また、周辺産業に及ぼす影響も生半可なものではない。組立て工程の下請け業者や、工場近辺の各種サービス業など、事実上フォレ工場に依存している労働者は少なく見積もっても8000人。彼らにとってゴルフの製造ラインは文字通りライフラインだ。もともと工場の直接労働者よりも賃金が低く、強大な労働組合にも守られていない彼らにとって、事情は更に深刻だと言える。

VW社によると、今回の決定は、同社が推進している西欧地域の生産規模20％カット、従業員2万人削減プランの一環で、これはこの地域の自動車市場が飽和状態にあり、そのため現状の生産能力に余剰が出てきてしまっているための整理策だという。今後、スペインのパンペルーン工場についても稼動状況の見直しがあるそうだ。

この発表を受けて、ベルギーのヴェルホフスタット首相は「これはドイツの国益重視による決定だ」とコメントした。筆頭株主ポルシェに次ぐVW社の第二株主はニーダーザクセン州（州都ハノーバー）で、ドイツ国内の雇用維持のための圧力がかかったという。首相は、フォレ工場での新たなアウディA1生産ラインの確保（２００9年から）など、ベルギー国内の雇用、産業への打撃緩和策を模索している。

年々進む技術革新や効率アップで自動車産業における生産性が年率2-3％上昇し続けているのは周知の事実。一方で賃金は低迷を続け、工場の労働者は、自分が生産した車への購買力さえ失いつつある。今回のベルギーでの大量解雇決定に先立ち、ドイツでは解雇を恐れた労働組合が無報酬での労働時間延長に同意している。労働者側から見ると自殺行為、経済の観点からも悪循環の好例だ。専門家の間では、今後自動車産業の従事者数が減少するのは、必然的、という見解が一般的だ。他業種での好例が、農業だという。一見何の関連性もない産業のようだが、さて、共通点は…？