ベルギーのホットトピック　4月
祖国の風景

　 2月2日金曜日、東フランドル州シント・ニクラウス市役所に結婚式の申し込みにきたカップルが、式を執り行うヴーター・ヴァン・ベリンゲン助役 (スピリット党　−国粋系左派政党−） が黒人であることを知り、これを拒否した。ヴァン・ベリンゲン助役（35）は1月にフランドル地方で初めての黒人助役として就任したばかり。同市によると、1月以前にも、就任後の同助役による式執行を拒否したカップルがいたらしい。

市長フレディ・ウィロックス (フランドル社会党) は「これは明らかな人種差別の例です。今度こんなことが起こったら、助役と私が直接当事者と話をするつもりですが、その際、一歩も譲歩するつもりはありません。」と話している。また、ヴァン・ベリンゲン助役のコメントは「もし結婚式の担当助役として私を拒否したい人がいるなら、その人達の選択肢は3つ。結婚するのをやめるか、どこか別のコミューンに引っ越すか、でなければ私を担当として認めるしかないですね…。」

この件は、東フランドル地方の政治色を知っていればあまり驚くに値しないかもしれない。というのも同地方では、前回の選挙で有権者の4分の1がヴラームス･べラング党 に投票しているのだ。ヴラームス・べラング党といえば、オーストリアの自由党、フランスのフロン・ナショナル党などと並ぶ、極右政党。フラマン国粋主義やフランドル地方の連邦からの独立、移民排斥などを政策として掲げつつ、反対派と衝突を繰り返しつつもここ10年ほどでフランドル地方第二の政党として台頭してきている。

今回のケースについて同党は、一旦結婚式を拒否したカップルを支持したが、そのことで窮地に追い込まれた。「我々が掲げている政策は《人種差別》ではない。フラマン文化を守ることが大事なので、外国人にもフラマン文化に同化してもらうことを要求している。そうでない人にはフラマンから出て行って欲しいだけだ。」と人種差別非難に反論してきたが、黒人のヴァン・ベリンゲン助役は、完璧にフラマン文化に同化し、東フランドル地方独特の方言を流暢に操る、そして国粋派政党の議員ですらあるのだ。同助役は弟とともに南ア出身で、生粋のフラマン家庭に養子として育てられた。弟のステフ氏は「祖国、という言葉を発する時、僕や兄の心に浮かぶのはフランドル地方の風景です」と話している。

　 この件が招いたその後の事態が面白い。フラマン語日刊紙スタンダード(キリスト教/保守系)のウェブサイトが行った世論調査では、90％が「白人の結婚式を黒人が執り行うことには全く問題がない」という回答を寄せている。また、この件が公表されるやいなや、ヴァン・ベリンゲン助役は何百通もの励ましのメッセージをフラマン市民から受け取ったそうだ。同時に別の助役のもとで結婚した数組のカップルからの依頼もあり、結局ヴァン・ベリンゲン助役は、国際人権差別撤廃デーの3月21日、シント・ニクラウス市のグランプラスで、合同結婚式を執り行うことにした。希望するカップルは誰でもこの再出発の式に参加できるということで、国内外の大きな反響を呼んだ結果、各国メディアも駆けつけ、700 組の盛大なセレモニーとなった。そして、同助役の執務スケジュールはと言えば、なんと2008年分まで結婚式の予約で一杯に詰まってしまったという。

冒頭のカップルについて人権平等センターや人種差別追放グループは提訴を検討している。しかし、提訴には被害者の合意が必要で、ヴァン・ベリンゲン助役は同意をしていない。「徹底して抗議するべきだ、という声も聞こえますが、私自身はそんなことをしても、意味がないと思っています。こんなケースはフランドル地方には既にたくさんあるし、そんな例をもうひとつ積み重ねても本当の意味での物事の解決には寄与しませんよ。」