第1幕
第1場　ロシアのヴォルガ河畔の町。ボリス･グリゴリイェヴィッチ (テノール) が、町の有力者で裕福な叔父のヂコイ (バス) に罵 (ば) 倒されながらやって来る。それを見ていたヂコイ家の若い執事クドリヤーシ (テノール) が、ボリスに「なぜこんな扱いに我慢しているのか」と尋ねるので、ボリスは「両親が死ぬとき遺産を叔父のヂコイに託し、私が彼に礼儀を尽くしたら渡してくれと遺言した。ほかの親戚のところにいる妹のことも考えて我慢をするしかないのだ」と物語り、さらに「今ある既婚の女性に恋している」と打ち明ける。クドリヤーシは「そんな恋は彼女を破滅させるから諦めなさい」と忠告する。そこへカバノヴァ家の人びとがやって来る。ボリスが恋しているのは、カーチャ (ソプラノ) で、彼女の夫で裕福な商家の息子チホン (テノール) は甲斐性なし。その上、姑のマルファ･カバノヴァ (愛称カバニハ、アルト) は封建的で、嫁のカーチャをいびることに生きがいを感じている。今日も息子チホンに「母よりも妻の方が大事か」と難癖をつけ、チホンに妻を残してカザンの市場に行くように命じる。

第2場　カーチャはカバノヴァ家の養女ヴァルヴァラ (メゾソプラノ) に、楽しかった自分の娘時代の話をし、夫以外の男に想いを寄せていることを告白してしまい、罪の意識と運命の不吉な予感におののいて、カザンに出発するチホンに「私も連れていって」と懇願する。心ではカーチャにひかれながらも、母親に頭が上がらないチホンは、母にそそのかされて仕方なく妻を侮辱して、出かけていく。

第2幕
第1場ヴァルヴァラは義姉のカーチャがボリスに恋をしているのを察し、自分が愛人クドリヤーシに会うために盗んでおいた庭の木戸の鍵をカーチャに与える。カーチャは、罪の意識に悩みながらも、死んでもいい、ボリスに会ってみようと、変わりゆく自分の心を歌って去る。泥酔したヂコイとカバニハが現れ、彼女に気があるヂコイは言い寄るが、カバニハは取り合わない。

第2場　深夜、カバノヴァ家の裏で、クドリヤーシとヴァルヴァラ、ボリスとカーチャの2組の恋人たちがあいびきをしている。ボリスの熱烈な愛の告白に心が乱れたカーチャは、その愛を受入れて破滅への道を選択する。

第3幕
第1場　10日後、あばら家でクドリヤーシが友人らと雷雨を避けて雨宿りをしていると、酔ったヂコイも入って来る。ヴァルヴァラが現れ、ボリスを呼び寄せて「カーチャが取り乱していて、カザンから帰ってきた夫チホンに罪を告白してしまいそうで危ない」と伝える。カバノヴァ一家が現れ、興奮して駆け込んできたカーチャが、夫チホンと姑カバニハの前にひざまずき自分の不貞を告白して雷雨の中を走り去る。

第2場　まだカーチャを愛しているチホンは、｢母が妻を生き埋めにせよと騒いでいるが、僕にはできない｣と叫び、女中のグラシャ (メゾソプラノ) とカーチャを捜す。ヴァルヴァラとクドリヤーシは、2人でモスクワに逃げて新しい生活を始めようと意気投合する。自分を責めるカーチャが現れ、「たとえ死んでも、もう1度ボリスに会いたい」と呟き、｢もしボリスと一緒に暮らすことができたら｣と、一条の夢を持つ。しかし現れたボリスは、叔父の言いなりにシベリアに行くことになったと言い、「連れて行って」とすがるカーチャに、「君は結婚しているのだから｣と去っていく。自分を苦しみから救う力がボリスにはないことを知ったカーチャは、ヴォルガ河に身を投げる。彼女の死体があがったとき、ようやく自己意識を持ったチホンが母親に「母さんがカーチャを殺した」と言うが、時すでに遅く、幕が下りる。